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感想 - ク・ジョンイン「秘密を語る時間」 - 一人の社会人として性被害に向き合うには

本屋さんでふと気になって手に取った漫画で、どちらかといえば薄く、数十分で読める漫画です。
ですが、本当に一生かけて向き合いたい本になりました。すでに5回近く読み、3時間以上この本について考えています。

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ク・ジョンイン「秘密を語る時間」 - 表紙

初めに言ってしまうと、5歳のときに性被害に遭った女の子の話です。友人が、あるいは自分の娘が、将来またはすでに、公園や学校やその他の状況で性被害に遭っているかもしれない。そうした社会に対して、責任ある態度を取るにはどうしたらいいか?考えるヒントになる本でした。

読んでほしいので内容は書きません。
主人公のウンソ(韓国の話ですが、それが読書中に気になることはありません)が、後から涙が出てきたり、孤独を感じたり、友人の働きかけに嬉しく思ったり、産婦人科の先生が本当にいい人であったり、母親が戸惑ったりを、ハラハラ・ドキドキしながら読みました。

何らかの被害に遭った人に寄り添うとき、同じ経験のない自分では力不足ではないだろうか?といつも考えていました。
でも、相手の感じた戸惑い・悔しさ・いらだち・復讐・諦め・孤独の一つづつに共感することはできそうです。この「秘密を語る時間」で主人公ウンソの気持ちに共感できたので、今後の人生でそうした局面にあったとしても、相手の中のつらい気持ちに向き合えそうです。

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ク・ジョンイン「秘密を語る時間」 - ページ28


「秘密を語る時間」を読んで考えたのは、性被害に遭った方に対しては、「あなたは悪くない」...私の言葉で言い換えるなら、「あなたが許していないことを、あなた同様私も許さない」「一人で何だったかを考えてきた時間の不安や悲しさが、いま私も同様に悲しい」...という共感が、もしかしたら本当に生き死にを分かつかもしれない、ということです。
例えば突然ろれつが回らなくなった人がいたら、救急車を呼ばなければ脳梗塞で後遺症が残ってしまうように。

なぜ共感かといえば、性被害と戦う(公にするかどうかに関わらず、自分の中で)のはものすごく準備がいりそうだからです。

まず、被害が何だったのかを整理するのが大変だと思います。そもそも私を粗末に扱う人間がいる、ということを確信するのが大変です。さらに、なんとなく気持ち悪いのなんとなくを言語化するのも難しいと思います(幼少期からの性教育は、こういう非常事態のための語彙を育む意味もあるんだと気づきました)。
そうした自分自身の戸惑いを言葉にするのも大変なはずです(そこまで考えて、性犯罪は時効を無くすべきでは、と思い至りました)。

でも、そうした考えを確固たるものにしないと、反論にさえ値しないような意見(気にするようなこと?など)を跳ね除けるパワーや、誤った論理(嫌って言わなかったのはなぜ?など)に時間切れで負けないための論理を培えないと思います。

次に、なぜ生き死にを分かつかもしれないと思ったか。
主人公ウンソが答えが出ない中悩んだように、被害者があなたに相談しているとき、理解してくれるかもしれないが10%、理解しないにしろ誰にも言わないであろうが60%として、誰かに言われてしまったら悲しいが一般的に見て自分が悪いわけでもないし、最悪死ねばいいや、が30%、くらいで、本当に死が選択肢にあるかもしれないと考えたからです。

個人の意見ですが、自分が人間として、嫌と思うことを聞き入れてもらえないというのは、要するに人間扱いしませんという宣言だと思ってます。そうした扱いを突きつけられた状態で過ごすのは本当に辛いです(この辺は会社でパワハラを受けたときのことを思いながら書いていますが、違うかもしれません)

その上、主人公ウンソがそうであったように、相談すべきかどうか、何度も何度も最悪のケースを想像しながら考えたはずで、あなたが相談を受けたらもう次はないかもしれないからです。

したがって、責任のある社会人としてできることは、誰かに相談された時に「あなたは悪くない」と言い切るための準備をすることなのでは、と思いました(救急救命講習を受けるのと同じように)。


私は性教育や性被害の専門家でもないし、他の人に比べて特段多くの時間を費やして考えてきたわけでもありません。
なので、性被害に遭った方に共感するためには、もしかしたら他に定番の何かがあるのかもしれないです。

だとしても、責任ある生き方をしたいと考えており、かつ考えるきっかけを探している、漫画を普段から読む私にとっては、この本が出会うべき本でした。

この本が届くべき人に届くことを切に願います。

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