アチーブメント出版は、見たところ実用本に自己啓発のエッセンスを垂らした本を作っているようだ。
LEARN LIKE A PROはその印象と裏腹に軽くない。Coursera の人気講義 "Learning how to learn" の講師コンビが執筆した、いわば同講義の書籍版だからだ。
私は2017年くらいに Coursera で同講義を受けたことがあるのだけど、この度日本語で書籍が出たということで復習のために読んでみました。
- 作者:バーバラ・オークレー,オラフ・シーヴェ
- 発売日: 2021/02/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
私なりのまとめ
- 人間にとって「学習された」とは、物事を観察あるいは実演するときに、作業記憶だけでなく長期記憶から習得済みの概念を引っ張ってこれること
- 「学習」とは、1. 作業記憶の上に新しい概念を並べること 2. 並べた概念を(短期記憶・)長期記憶に移すこと 3. 長期記憶からより思い出しやすくすること の3ステップ
- 学習に向かわせるには、「タスクをやり遂げたら、これだけの報酬が得られる」という脳の働きと、「失敗するのではないか?」という脳の働きをうまく操作すること
学習について
作業記憶から短期記憶、長期記憶に記憶を移すことは、実際に物理的な移動を伴います。具体的には、おでこの裏側にある前頭前皮質(作業記憶)*1から脳の中心にある海馬(短期記憶)・こめかみの奥にある側頭葉(長期記憶)*2に移動されているようです。
難しい概念を噛み砕く場合、おでこの裏側をいかに空けておくかが大事です。言い換えると、作業中に余計なことを考えないこと。
ポモドーロ・テクニックを使ったり、なにか関係ないことを思いついたら「後でやる」リストに書き込んだりすること。
また、作業と作業の間に5分、または作業が連続していたら10分か20分の休みを設けること。要するに、前にやっていたことが長期記憶に移って、次の作業を綺麗な作業記憶で始められるようにすること。
それから、概念を分けることも効果的です。鍵盤ハーモニカの曲をフレーズごとに覚えて最後には一つの曲にするように、いくつかのステップに分けてしまう。
作業記憶から(短期記憶・)長期記憶に移すには、思い出すことが重要です。具体的なテクニックとしては、
- 前回学んだことよりもより難易度の高いことを学ぶこと
- 本の目次だけを見て中身を思い出すこと
- 同様に、ノートの右側だけを見て左側を思い出すこと
- プログラミングなら、ディレクトリの構成だけを見て実装を思い出すこと
思い出す頻度に関しては書籍中に言及がないものの、カナダのウォータールー大学のブログ*3から引用すると翌日、1週間後、1ヶ月後に復習すれば良いよう。
そう考えると学校の時間割が週単位なのは理に適っていますね。
モチベーションについて
タスクに着手しようとするとき、脳は損得勘定をする。
そもそも勉強より魅力的なこと(ポケモンとかAmong Usとか...)は部屋の中に多いけど、前頭前皮質腹内側部(たぶん眉間の2,3cm奥)を働かせることでそれらを先送りにできる。具体的には、「これが理解できたら、もっと色んなことが自由にできるようになる」みたいに考えることで。
逆にネガティブな面に思い当たると活発になるのが島皮質(こめかみの奥)で、「どうせ分からんしな」みたいな苦い思い出と一緒に活発になり、痛みを感じるようになり、勉強にブレーキをかける。
勉強する前に、どうしてそれを勉強しようとしているのか思い出すといいね。ノートの冒頭に書いたっていいかもしれない。
それから、実際に勉強を始めると数分で痛みが引くらしい。とりあえず手を動かすのも時には大事。
終わりに
範馬刃牙によれば、男の子は誰でも一度は最強を目指し、それを最後まで諦めなかった傲慢さ...自己肯定感の塊が範馬勇次郎らしい。
思うに、同じことが知的欲求にも言えるのでは。人間誰でも好奇心と一緒に生まれて、それを諦めなかった人も同様に圧倒的な自己肯定感を持っていると思う。
知ること、学ぶことを諦めないための奥義として、この本は私のバイブルになるでしょう。